ページ

2012年3月9日金曜日

これは、2009年03月27日にmixiに書いたもの。

今、いろいろなものを編集していて、この日記は、また誰かに読んでほしいと思った。

つながりに欠けるし、物足りないけど、これが2007年3月27日の実力。

どうぞ。
「桜を見にいかないか?」

城山にそう誘われたのは、おとついのことである。

長崎の、松山付近が一望できる、小高い山の中腹にある和風の食事処で昼食中であった。

別段、景色や花が好きそうでもなかった城山に誘われたのは意外だった。

俺らは、大学が春休みで実家の長崎に帰省していた。

前日にフェリーで釣りに行ったのにもかかわらず、野球をして、朝から同じメンバーでまた遊んでいる。

一緒に食事をしていた西嶋と黒沢は、悩む暇もなく、城山の辺鄙な提案に、「めんどくさい」と即答した。

一番端に座っているゴーユは何も言わず、出しのきいた素麺をすすっている。


西嶋・黒沢・城山・ゴーユは高校からの友達である。


「いいかもね。」 

俺は、窓越しから僅かに見える公園で4人組の男が野球をしているのを見つめながら言った。

どうせ時間はあるし、おもしろいかもなと思った。

そういえば小さい頃、父さんが桜を見にいかないか?と母さんによくいっていたのを思いだした。

冬の季節に聞いたこともある。

あれはなんだったのだろうか。

それにしても、この店の飯はうまい。


「お前なんで、いきなり変なことを言い出すんだ?」と、一応聞くか、という態度で西嶋は聞いた。 


「お前なあ、日本人が春に桜を見にいかないでどうするんだ。

春はなあ、生命の音があふれる季節なんだ。

桜というものはだなあ、昔から多くの人が思いを馳せる花なんだぞ。

今桜に思いを馳せないでどうするんだ。」

と何故か標準語で、天丼を食べながら言った。


「桜なんて改めて見る必要はないだろ。やぱめんどくせえし」と本当にめんどくさそうに黒沢が答えた。

「いや桜を見に行く目的で、桜を見にいかなければならない」

と、誰に訴えるわけでもなく、いや訴えているのだが、独り言のように、

ましてや誰かに教わった言葉であるかのように城山が言った。


ぶいーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん

今日は、家族と一緒に、仕事の休みで大型ディスカウントストアに買い物に来ていた。


買い物を楽しんだ後、ちょうど昼飯の時間がきたので、和風の食事処で食事をすることになった。

平日の昼。

それほど店内は混んではいなかった。

ちゅうぶらりんとなっている「ゆるた」と書かれてある黒々とした5キロはありそうな飾り物が落ちてこないか心配であった。

 「よろこんでー。」と変わった言葉で店員はむかえてくれた。


席に座り、昨日の仕事について考える。

自分の仕事は、全国チェーン店のピザ屋の店長。
店長という響きはいいが、ピザを作っては、その日の終わりに売上を本部に伝える単調な日々を過ごしている。


昨日の仕事は大変だった。

バイトが配達物を2つも忘れ、その謝罪のために客の家にいった。

お酒を飲んでいるのか、客の罵声はひどいものだった。と、こと深く思いふけっていると、 


「桜を見に行かないか?」という言葉が近くから聞こえてきたので、ビクリと我に戻った。


「どうしたの?そんなに驚いて。」と由紀子が聞いてきた。

「どうしたのお父さん?」と由紀子の隣のたけしが声をかけてきた。 

「今何か聞こえなかったか?」と由紀子に尋ねた。


確かに、桜を見にいかないか?と聞こえた。

それが、どこから発せられたものか、わからなかった。

その言葉は、二人の中で重要な言葉だった。 


あれは、高校の頃の話。
  

なぜ、こんな所に高校があるのか、という場所に高校はあった。

山の上にあるため、誰もがバスに乗る必要があった。進学校で部活も強かった。


ある日誰かに支配されているような日常が嫌で、部活の練習を休んだ。

休んだはいいものの、何をすればよいかわからなかった。


意味もなく、近くの岩屋山という山に登った。 

登ったはいいものの何もなかった。 すべてが後ろ手に回っていた。


土日だったためか、登山路があったためか、そこには女の人が1人いた。

「石」があだ名になるほど、不細工な俺。普段なら声をかけるはずもない。

だが、その時は違った。
今思い出すと、登ったはいいものの何もなかった、空虚感に反抗するためだったのだろう。



「桜を見に行きませんか」 



後ろからいきなり声をかけられた彼女はもちろん驚いた。

振り向いて「気持ち悪い」と1言だけ放った。

もう少しドラマティックな場面を連想をしていたので心底悲しくなった。

そのまま訝しいものを見るように、彼女は山を下りて行った。


それから数年後、付き合って結婚した。

大学は別になったものの同じ大手テレビ局に就職した。

彼女は、DJをするぐらい活発的な女性で、謎が多い女性であった。 


付き合い始めた、ある、春の季節、彼女はいった。

「ホテル行こう?って品がない言葉だから、何か代用する言葉を考えて。

伊坂さんの本にある、ゴキブリをせせらぎって呼ぶように。」といった。


後日「俺らが初めて交わした「桜を見に行こう」はどう?春って初々しい感じする。」と聞いてみた。

彼女は賛成した。
それから二人の中で重要な言葉となった。


「なに考えてるの?」


と由紀子が聞いてきたので、ふと我にかえった。

学生と思しき後ろの若い5人組が談笑してるのが耳にはいる。 


そういえば最近その言葉いってないなと、由紀子を目の前にして考えた。

子供が大きくなり、言葉を理解するようになったので、使うのをさけていた。

桜も咲いていない季節に、その言葉を使うのはおかしい。


出会って15年。高校を卒業してから15年。


高校の頃の友達が結婚したというのをよく耳にするようになった。 

全く想像もできない人生をどこかで送っているんだろうなと考える。



桜の季節に思いを馳せる。


「もう行くわよ。」と由紀子が声をかけてきた。 


窓に目を向ける。

桜の木が所々見える。3階建ての大きな公園だ。あそこに行ってみたい。


「もう行くよ。」とまた由紀子が声をかけてきた。


春の気持ちいい風が吹く。

桜の匂いを嗅ぎたい衝動にかられる。



「桜を見にいかないか?」と由紀子に聞いてみる。




由紀子の顔がなぜか赤らめるのが見えた。


0 件のコメント:

コメントを投稿